De nos jours.

僕が、この少しばかり倒錯した性的指向を自認したのは、多分あの夜からだ。



当時の僕は、クラスメイトとして出会った彼女をひたすらに溺愛していた。その彼女自身の口から、昨夜は僕に嘘をついて外出し、バイト先の男と朝を迎えた事実を知らされた。…まあ、正確には白状させた様なものだったが。
残念ながら概ね察しは付いていたのだ。僕は生れつき鼻が効くから。
嫉妬に狂う事も哀しみに暮れる事も無く、至って冷静に尋ねてみた。
『…良かった?』
彼女は何も答えずに泣いた。
『ごめんなさい。もう二度とこんな事、しないから…。』
許しを乞う子供の様に震えながら、真っ赤な瞳から止めど無く零れる涙もそのままに僕を見つめて哀願した。僕は「…謝られても。ってか質問の返答になって無いよ?」と思った。そして、
『こんな事…って、ねぇ…。』
と呟きつつ、車の窓を少し開けて煙草に火を着けた。外に視線を遣ると、夜の公園は辺りに人影も無く、静寂に包まれていた。
言葉に詰まった僕は、無意識の内に彼女とその男が過ごした束の間の隠逸に思いを巡らせていた。すると、何故か次第に興奮にも似た感覚がムクムクと湧き上がって来るのを感じた。
今更だが、我が彼女の馬鹿さ加減に怒り心頭したのか?それとも、彼女の涙(多分ウソ泣き)から、拉致監禁及び強制猥褻を受けたのだと些か強引に推測し、復讐を決意したのか!?
どちらでも無かった。
端的に申し上げると、僕はおっきしていた。
心も身体も繋がり合い、ひねもす相思相愛を信じて疑わない僕の阿呆面を横目に、このバカ女は己の欲望が赴くまま何処ぞの男に抱かれたのだ。
これはどう考えても一人エレクトリカルパレードしてる場合じゃ無い。
しかし、彼女の“おうちじゃ素直な優等生”的風貌に潜む色情魔気質(仮にも元カノに酷いな…。)を、「ほんとは違うのに…。」と、ヨロシク理解していた賢い僕にとっては至極自然な事で、別に何も間違って無い行為にさえ思われた。
そんな事よりも、寧ろ二人の密事の一部始終をこの眼でじっくり見たいと思った。
陳腐な愛を語られ、恐らく数時間後には易々と一糸纏わぬ裸体を晒したのであろう。不潔な指で舌で全身を隈なく辱められ、猥らに喘ぎ、憑依したかの様に夢中で奉仕する。淫欲漲る愚息に犯され恍惚とする彼女の表情は、僕の想像を絶する程美しかったに違い無い。
僕にとっては心が張り裂けてしまいそうな、禍々しい光景を一人ニヤニヤと眺め、
「噴いてんじゃん!」*1
とか
「ゴックンかよ!」*2
と、三村ライクに突っ込みつつ手淫に勤しみたい。そして是非ともDVDにでも永久保存させて頂きたい。一生涯のマイ・フェイバリット・オナムーヴィー(avex辺りに居そうだ)になる事は、火を見るよりも明らかである。
何、悔しいものか。
畜生が悔しい筈があるか!
―最愛の貴方が望むなら、その全てを肯定しよう。たとえ、それが刹那の享楽に過ぎずとも、如何なる因果とて憂い無し―
これはバッタモンの新約聖書からの引用でも、某雑居ビルの四十畳一間に集うヤッカイな人々が唱える有り難い教えでも何でも無く、当時の僕が彼女との交際から導き出した劇団ひとりも裸足で逃げ出すドM極まり無い“愛の真理”だった。
愛と書いてめぐみと説くには余りに程遠い、恵まれ無い事受け合いな真理である。
まぁそんな屁理屈はさて置き、その夜は煩悩満開で破廉恥オールナイトを敢行するに至った。
いつも嗅ぎ慣れた彼女の髪や身体や汗のイイ匂いに混じって、知らぬ男の不快な匂いがした。僕は生れつき鼻が(ry
そして、それを悟られる事を殊更に羞恥するかの様な彼女の奇行は僕の想像力を悪戯に高め、海綿体は痛い程に充血した。ビックリする様な早さならアップフロント社の振り込め用紙に勝るとも劣らない僕の射精所要時間は、遂にこの夜、世界一不名誉なワールドレコーズを樹立した。苦笑。
『いつも3回目からが本番だもんね?』
僕の耳元で秘め事の様に囁き、彼女はクスクス笑った。
ちょっぴり久し振りに見た彼女の天真爛漫な笑顔は最高に可愛くて、僕は思わず「この売女が!」と、心の中で罵った。
そんな、本当に困ったおバカさんだけど無駄に利口な一面を持つ彼女に、僕は虜だった。
勿論、後日彼女に内緒でランバ・ラル仕込みの卑劣な奇襲作戦を企て、予定通りその男を捕獲性交。もとい成功。冷え込み厳しい深夜の駐車場に映える悲惨極まりない彼の表情(ツラ)及び醜態は、丸の内よりサディスティックな僕のハートをがっちりキャッチしたものだ。嗚呼、愉快。痛快。怪物くん。
一件落着ぞなもし。
しかし、その後も彼女からは色々な事を教えられた。
個として産まれた人間同士が如何に愛し合おうと永遠に一つになれる事なんてぶっちゃけ有り得無い、とか。かと言って束縛なんかした所で所詮エゴでしか無いし全く無意味だけど完全に取り払っちゃうと疑心暗鬼の種になるよね、とか。
頭の悪い僕には、理論で教えられるよりも彼女との付き合いから学ぶ事の方が遥かに理解できた。…様な気がする。
数年の月日が過ぎ、幸せに同棲していた筈の僕達に、別れは突然訪れた。思い当たる原因は色々有り過ぎるから、気が向いた時に小出しに書こうかと思う。書かないかも知れないけど。
彼女が最後に残してくれたのは、愛情の消失を物語る月並みな言葉で綴られたお別れの手紙一枚と、洗濯籠の中に忘れていたWing謹製レース付きベージュのパンティだけだった。
僕は身に余る幸せを感じて少し泣いた。

*1:噴かない子だった。あっしの技量では。

*2:飲まない子だった。下るそーな。